楕円曲線論はじめの一歩 (5)

今回のおはなし

みなさんこんにちは。

VIPPOOL でエンジニアをやっています、星月です。

前回まで、ずっと足し算の話をしてきました。
じゃあ、掛け算と割り算はどうなんでしょう?というのが今回のテーマです。

「掛け算(割り算)」と呼んでもいい条件

掛け算ついても、過去の偉い人たちが散々検討を重ねた結果、
「これを満たせば『掛け算』と呼んで差し支えないだろう」
という条件が決まっています。

「足し算」が存在する

掛け算というのは、それ単体で存在するものではなく、
足し算がある上に、さらに追加の演算として存在するものである。

というわけです。つまり、足し算ができる上で、さらに追加で別の演算ができるときに、
その追加の演算を「掛け算」と呼ぶわけです。

足し算は可換群の性質を持つ

「可換」とは、「左と右を入れ替えても結果が変わらない」という性質のことです。

1 + 2 = 2 + 1

つまり、足し算が群であるだけでなく、
追加で「左と右を入れ替えても同じ結果になる」という性質を備えている必要があります。

掛け算は 0 以外に対して可換群の性質を持つ

ここまでは、要するに「掛け算が存在するためには『足し算』が要る。それは可換群である。」という話でした。

掛け算の本質はここからです。

足し算の可換群の元から 0 を除くと、掛け算に対しても可換群の性質を持ちます。

つまり、こういうことです。

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「群」とは足し算を抽象化したものである。と説明してきましたが、
実は掛け算も、本質的な性質としては、似たようなものとして説明できてしまうわけです。
これ、結構面白くないですか?

足し算と異なるのは、0 を含まないという点と、つながっている順番(構造)が
異なるというところだけです。

つまり、足し算ができて、足し算とは構造の違う演算がもう一種類定義されたとき、
それを掛け算と呼んでいるわけです。

0 の掛け算は結合法則が成り立って可換である

結合法則が成り立つ。つまり、

(a * b) * c = a * (b * c)

このどこに 0 が入っても等号が成立します。また、可換である。つまり

0 * a = a * 0 = 0

となります。

「分配法則」が成り立つ

これは小学校で習いましたね。

3 \times (1+2) = 3 \times 1 + 3 \times 2

ということです。

具体例で見てみましょう

抽象的に説明してもピンと来ないと思うので、
具体的に、「実数」に対して考えてみましょう。

まず、実数には和と積、2種類の演算ができます。

次に、和については、可換群の要素を満たしています。

  1. 実数と実数の和は実数 → 演算について閉じている
  2. 和の順序を入れ替えても結果は同じ → 結合法則を満たす
  3. 0 をいくら足しても結果は同じ → 単位元(零元)は 0
  4. マイナスをつけた数との和は 0 → 逆元(マイナス元)が存在する
  5. 和の左右を入れ替えても結果は同じ → 可換である

なお、掛け算の「単位元」「逆元」と混同しないように、
足し算の群の方は「零元」「マイナス元」と呼んだりします。

さらに、積についても、0 を除けば可換群の性質を満たします。

  1. 実数と実数の積は実数 → 演算について閉じている
  2. 積の順序を入れ替えても結果は同じ → 結合法則を満たす
  3. 1 をいくらかけても結果は同じ → 単位元は 1
  4. 逆数をかけると 1 になる → 逆元が存在する
  5. 積の左右を入れ替えても結果は同じ → 可換である

0 の掛け算に関しては、結合法則を満たすし、可換でありますね。

あとは、小学校で習ったとおり、分配法則も満たします。

以上から、実数は全ての条件を満たしていることがわかります。

つまり、これらの条件は、実数に対する和と積から、
極限まで具体性をそぎ落とした、「和と積についての本質的な性質」といえるわけです。

この、「和と積についての本質的な性質」を満たすもののことを「体」と呼びます。

まとめ

掛け算とは、足し算ができる上で、さらに別の演算が定義されている場合に、
それが特定の条件を満たしている場合の呼び名である、というお話でした。

そしてそれは、実数のように、普通に四則演算に使っているものから、
具体性を極限までそぎ落とした、「四則演算の本質」であるということでした。

今回はここまで。
ご質問、ご意見等ありましたらお気軽にリプライください。